75歳の女性、要介護5のSさん。多発性脳梗塞による四肢麻痺と後遺症としての認知症があります。とはいえ、まったく状況が理解できないわけではなく、もちろん尊厳は保持しながら、同性介護を基本に支援をしています。ですが、ホームヘルパーによっては明らかに受け入れてもらえません。Sさんに理由を聞いても、具体的な理由は話されません。このままでは、サービスに入れるホームヘルパーが限られてしまい、対応することが困難になりそうです。
この事例の背景を考えよう!
おむつ交換や入浴介助などは、できることなら支援を受けたくないサービスの筆頭でしょう。自分ではどうにもならず、家族にも頼めず(家族だからなおさら嫌という人もいます)、仕方なく私たちの支援を受けることになります。ただでさえデリケートな支援なのに、「仕事だから」と、ずけずけと羞恥心の中に入り込んでいけば、受け入れてもらえなくても当然。ですから、こうした支援の際には特に配慮が重要になります。
Sさんの場合、受け入れない理由が明確ではないため、なかなか解決に向けた対応策を考えるのが難しいのですが、受け入れてもらえないホームヘルパーの対応から原因を探っていくことが可能です。
もしかすると、そのホームヘルパーが……
- Sさんに対して苦手意識があったのかも?
- 「認知症だから多少雑でも大丈夫」などと思っていたのかも?
表面上は手順通りサービスを実施していても、特に身体介護は利用者の体に触れることが多いため、声に出さなくても気持ちが伝わってしまうことがあります。本来は触れられたくないおむつ交換はなおのこと、反応が顕著に。このような場合、認知症の有無に関係なく、サービスを受け入れてもらえないことが多いのです。
こんな接し方をしてみよう!
関係のない会話をしながらおむつを交換する
排泄介助のような羞恥心に配慮を要する支援の場合、むしろ会話を多用することが好ましいと言えます。おむつや排泄の話題とは、まったく関係ない会話をしながら「気が付いたら終わっていた」といった支援が望まれます。
もしも、ホームヘルパーが何も話さず、黙っておむつを交換したらどうでしょう。その間、利用者はベッド上で下半身をさらけ出し、排泄物を見られるわけです。これほど屈辱的なことはないでしょう。
本誌では他にも多数の事例から利用者への接し方を紹介しています。
監修・執筆/能本守康
介護福祉士、主任介護支援専門員、相談支援専門員、日本ケアマネジメント学会認定ケアマネジャー、日本介護支援専門員協会常任理事、(株)ケアファクトリー代表取締役などを務める。著書に『Q&A 訪問介護サービスのグレーゾーン 改訂版』(ぎょうせい)などがある。イラスト/フジサワミカ