適切な食事が摂れていない結果、栄養不足から病気が重症化したり、要介護度が上がったりしてしまう在宅高齢者の増加が問題になっています。その対策として、利用者と接する機会が多いホームヘルパーだからこそできることをみていきましょう。

高齢者にとって“やせ”は死亡のリスク増につながる

一般的に、太っている人ほど高血圧、高血糖、脂質異常症などの生活習慣病になりやすく、その結果、脳梗塞や心筋梗塞といった命に関わる病気を発症する危険性が高まります。そのため「肥満は健康によくない」といわれています。

しかし高齢者になると、話が違ってきます。上のグラフは65～79歳の日本人のBMI※と総死亡に対する危険度を調べた研究結果です。これによると、BMI20～23を基準として見たとき、数値が高くなってもさほど変化はありません。しかし基準よりも低くなると、危険度がグンと上がっています。

つまり、65歳以上の高齢者にとって、「やせる」のは大問題。死亡リスクを上げ、寿命を縮めることにつながるのです。当然、要介護度を上げる要因にもなります。

フレイルを放置すると認知症の危険がアップ

フレイル（虚弱）とは、加齢に伴い筋力や活動が低下している状態で、要介護の一歩手前の段階といわれています。筋肉量が減少するサルコペニア同様、高齢者の栄養と関係が深い問題です。フレイルになるとケガや病気になりやすいうえ、重症化したり治りにくくなったりします。

また、最近の研究から、フレイルは認知症の危険因子でもあることが判明しています。実際、アルツハイマー型認知症の人の体重変化をみていくと、発症の数年前から体重減少しているケースが多いことがわかってきています。この点からも、栄養管理の重要性を実感するのではないでしょうか。

大切なのは筋肉量を保つこと

個人差や男女差はあるものの、20歳のときに比べて、筋肉量は誰しもおおむね65歳で５%、70歳で10%、80歳で15%ほど減るといわれています。年齢を重ねると、自然に減少するうえ、高齢になると若い頃よりも活動量が減るので、ますます筋肉量の減少を進行させます。

筋肉量を増やし、維持するために必要なのは、筋肉の材料となるたんぱく質をしっかり摂ること。そして適度に体を動かすことです。つまり、食べる量が減ってやせてしまうと、筋肉量も減少してしまうのです。

しかも、加齢に伴い、体内でたんぱく質を合成する力＝筋肉を作る力も落ちてしまいます。ですから、本当は高齢者のほうが若い人よりも、筋肉の材料となる肉や魚、卵などのたんぱく質をより多く摂取する必要があります。

でも実際は、高齢になると食への関心が薄れたり、口腔機能の低下により食べづらくなったり、さまざまな事情から、十分な栄養を摂れていない人が増加します。そうした高齢者を支えることが、ホームヘルパーの大きな役割となっているのです。

本誌では簡単なテストで利用者の状態がチェックできるポイントなど栄養対策について詳しく説明しています。

監修／山口潔
医療法人社団創福会ふくろうクリニック等々力理事長・院長。医学博士。東京大学医学部附属病院老年病科非常勤講師。日本認知症学会専門医・指導医、日本老年精神医学会専門医・指導医、日本老年医学会老年病専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本プライマリ・ケア連合学会プライマリ・ケア認定医、日本緩和医療学会指導者研修会修了。

取材・文／植田晴美　イラスト／斉藤かこみ