介護現場において、事故の予防はきわめて重要な課題です。しかし、事故を「起きてはならないもの」「起こらないようにできるもの」として、予防することばかりを考えると、かえってよいケアから遠ざかってしまうおそれもあります。今回は、起きてしまった事故を個別に分析することで、事故再発防止につなげる視点をお伝えします。
介護現場における事故の本当の問題点は何でしょうか? それは、「事故が起こること」ではなく、事故によって利用者が心身にダメージを受けることです。
ホームヘルパーの不注意で急須にヒビが入ってしまった事故。その急須の価格とは関係なく、「また買えばいいわ」とさして問題視しない利用者もいれば、「両親から受け継いだ大切なものだったのに!」と大きなショックを受ける利用者もいます。
たとえ同じように見える事故でも、
- その事故によって利用者にどんな影響があるか
- 利用者や家族にどう説明、謝罪するべきか
- 再発防止のためにどんな取り組みをすればいいか
はケースごとに異なるのです。
事故を「のびしろ」として前向きに捉えよう
どんなに気をつけていても、事故が起きてしまうこともあるのが現実です。現場で事故が起きたとき、ホームヘルパー個人のスキルの問題に落とし込んで、話を終わらせてしまうことはないでしょうか。しかし、本当の事故の原因は複雑なことが多いだけに、より根本的な原因を探ることが重要です。
事故を事業所全体の問題として捉えて課題を明確にし、最適な対応を心がけることは、関係者のダメージを最小限に抑えるための最善の道。それだけでなく、より安全で利用者に寄り添ったサービスを提供するきっかけにもなり、いわば事業所にとっての「のびしろ」にもなり得るのです。
そのためには、単に振り返りや反省をするだけでなく、個別の事故をきちんと分析して対応することが欠かせません。そこで意識したいのが、「事故対応の3原則」です。
本誌では起きた事故を次へつなげるための事故対応の3原則を詳しく解説しています。
監修/倉井千恵
セコム医療システム株式会社 ケアサービス部課長。看護師、ケアマネージャー。1998年に入社。訪問看護、訪問介護、ケアマネジャーの実務を経て、現職。在宅介護を展開する部署で、おもに組織作り、人材の育成を担当。イラスト/みやれいこ