訪問介護のサービスを提供する現場にも、残念ながら虐待に結びつきやすい要因が潜んでいます。どんな場面でホームヘルパーによる虐待が起こりがちなのか、そして“虐待”の芽を早期に摘むためにはどうすればいいのか、考えてみましょう。
意図しない虐待にも目を向けた対応を
虐待というと「悪意のある暴力行為」がイメージされがちですが、ケアの一環として行ったつもりのことや、親しみを込めたつもりの言動が、非意図的な虐待に該当することも少なくありません。さらに、いわゆる不適切なケア(マルトリートメント)を放置することが、重大な虐待行為につながってしまうこともあります。
ある行為が「明らかな虐待に当たるか」という点にこだわって考える必要はありません。虐待を発見することが本来の目的というわけではなく、利用者にとってよいケアを提供することが介護者の役割であるという基本を、折に触れて思い返しましょう。
1 限られた時間&閉ざされた空間
起こりがちなこと
- 急いで服を脱がせようと強い力で利用者の腕をつかみ、あざを作ってしまった
- 排泄介助中、拒否されたので利用者を下半身裸のまま放置してしまった
2 利用者との距離が近い
起こりがちなこと
- サービス内容に含まれていないのに、お金の使い方を事細かに指図してしまった
- 「だらしないから子どもが寄りつかないのよ」など、職員個人の主観で利用者を責め立ててしまった
3 家族の気持ちに寄り添う
起こりがちなこと
- 家族が利用者に浴びせる言葉の暴力を「このくらいは仕方ない」と黙認し、改善のための働きかけをしなかった
- 家族の指示どおり、座れば身動きがとれないとわかっているソファに利用者を座らせ、身体拘束に加担してしまった
監修/小川久美子
公益社団法人あい権利擁護支援ネット講師。社会福祉士。多様な高齢者福祉施設の現場経験に基づき、高齢者虐待対応や成年後見に関しての助言・指導を行うほか、全国で数多くの研修を担当する。イラスト/尾代ゆうこ
参考文献:『「その人らしさ」を大切にしたケアを目指して』(公財) 東京都福祉保健財団