Q どういう状況からスタートしたの?
前任者の退職に伴い、週2回の入浴介助を引き継ぎました。前任者には信頼を寄せており、誘導すれば入浴できていました。「最初は難しくても、すぐに慣れてくださるはず」と言われたものの、不安はありました。初回訪問は前任者に同行してもらったのですが予感的中。初対面の私をとても警戒していました。それでも、とにかく情報を得ようと、2人のやり取りを見聞き。表情、話し方、受け答えなどを観察することで、Wさんは自尊心が高く、自分の考えを持っていらっしゃる方だと気付きました。
Q どうやって距離を縮めていったの?
「お風呂」「入浴」という言葉だけで、嫌な顔をされるので、掃除支援をしてから入浴につなげました。前任者も5分ほど片付けてから浴室に誘導していましたが、私の場合、心を動かせず30分経っても平行線。こんなことが数回続き、焦りました。そこで、より自尊感情を高める言動を心がけました。食器を片付けながら「置き場所が合っているか、見てもらえないでしょうか」、洗濯物をあえてクシャッとさせて「畳み方を教えてもらえませんか」など。そして必ず「Wさんのおかげで助かりました。ありがとうございます」とお礼を。“頼って、褒めて、感謝する”を続けるうちに、少しずつ心を開いてくれました。
Q それからは入浴介助できたの?
そう簡単には……。Wさんとの距離が縮まったのを見計らい、「お風呂に入りませんか」と誘っても「今日はいいです」とぴしゃり。やはり「お風呂」は禁句だと反省しました。そこで次の訪問時、タンスから洋服を取り出して「娘さんが新しいお洋服を用意してくださいました。絶対に似合うので、着てもらえませんか」とお願いすると、「そう?」と笑顔に。服を脱ぎ、肌着姿になったところで「すそが少し汚れてますね。ついでに下着も着替えましょう」と誘導すると、「汚れてないわ」と。失敗でした。
Q 成功につながったアプローチ法は?
肌着になるところまでは、毎回うまくいっていたので、その後の声かけを考えました。Wさんは認知症でも、きちんとした性格で意思のしっかりした方。だから、ご自分で確認できない場所であれば納得するのでは?と思い、「背中のあたりが少し汚れているので洗いませんか」と伝えてみました。すると「洗わなくちゃ」とご自分で肌着を脱ぎ、浴室に入られたんです。それ以降も、同じ流れで入浴してもらえるようになりました。
Q 振り返って思う、うまくいったワケは?
介助中に利用者をよ~く観察し、性格や心情を読み取って対応を考えたことでしょうか。Wさんの場合は、“自尊感情を高める言動”“ご本人が納得できるかどうか”がポイントでした。
※紹介している内容は、事実をもとに一部編集しています。
イラスト/山口まく