今、訪問介護の現場において、「口腔ケア」が改めて注目されています。その背景とともに、これからの訪問介護に求められる「口腔ケア」の在り方をみていきましょう。
口腔ケアは、なぜ大切なのか
私たちの口は、「食べる」「話す」「表情をつくる(喜怒哀楽)」といった行為をするための役割を担っています。その口の健康状態を改善したり、機能を維持するために行うさまざまな行為を口腔健康管理と呼びます。また、口腔健康管理のなかで歯科専門職以外の人が行うことを口腔ケアといいます。
口腔ケアの効果は、「むし歯や歯周病、口臭を防ぐ」「唾液の分泌を促す」といった口に関連するものだけでなく、低栄養や誤嚥性肺炎などの全身疾患の予防のほか、コミュニケーション改善にもつながり、QOL(生活の質)全体の向上にも大きく影響します。
今後、さらに重要になる口腔ケア
2018年の介護保険制度改正によって、訪問介護の運営基準に次の内容が追加されました。
訪問介護の現場での利用者の口腔に関する問題や服薬状況等に係る気付きをサービス提供責任者から居宅介護支援事業者等のサービス関係者に情報共有することについて、サービス提供責任者の責務として明確化する
これまでも訪問時の「気づき」の重要性に関しては言われていましたが、運営基準上でここまで明言されたのは、今回が初めてです。これは口腔の健康状態を把握し、異変があっ
た場合に速やかに対応することが、利用者の自立支援や重度化防止につながるという認識が高まっていることを示しています。そして、その把握の役割が訪問介護事業者に求めら
れているのは、利用者の生活の一番近い場所にいる存在だからです。
こうした時代の流れに合わせ、ホームヘルパーやサービス提供責任者には、利用者の口腔への関心や知識が、より一層、必要とされているのです。
監修/小玉 剛
公益社団法人日本歯科医師会・常務理事。こだま歯科医院・院長。歯学博士。1985年、こだま歯科医院を開設。東京医科歯科大学歯学部講師、東京医科歯科大学歯学部附属歯科技工士学校講師をはじめ、明治薬科大学客員教授などを歴任後、2016年より公益社団法人日本歯科医師会常務理事に就任。イラスト/佐藤加奈子