Q どういう状況からスタートしたの?
約2年前からサービスに入っていたSさん。右腕を骨折して入院し、自宅に戻った3カ月後に1日2回の訪問が再開しました。ところが入院中に認知症が進行し、トイレの場所がわからなくなって失禁が続くように。「トイレが部屋から遠い。でも自立を考えると……」など、現状を検討した結果、ポータブルトイレを使用することになりました。
Q なぜポータブルトイレを受け入れなかったの?
Sさんの場合、排泄介助自体に抵抗はなく、尿取りパッドも、すんなり使っていました。でも、認知症により、ポータブルトイレをトイレとして認識できないようでした。「これはトイレじゃない。できないわ」と腰もかけてくれず、試行錯誤を続けました。
Q どのような工夫をしたの?
“トイレ”と大きく書いた紙を貼ったり、便座に座ったり、排泄物が溜まるバケツを見せたりしてもダメでした。あれこれと手を打って2週間。「本当にしてみよう」と思ったんです。「トイレを貸していただけますか?」と声をかけ、Sさんの目の前で、ズボンとパンツを下ろして排尿。ジョ0ッという音やにおいに驚いたようでした。そして一言、「ここでしていいのね」と。以来、ポータブルトイレで排泄してくれるようになりました。
Q それからは、いつもポータブルトイレで?
はい。でも、訪問時以外の状況を把握できていなかったので、次はその解決策を探りました。担当者全員で知恵を出し合い、
- サービス終了時には必ずトイレットペーパーの先を三角に折る
- 尿取りパッドの数を把握・管理する
など取り組みました。Sさんは汚れたパッドや下着を枕の下などに隠すので、そっと処理し、「いつもこのトイレでおしっこをしてくださいね」と根気よく声をかけ続けて2カ月。ひとりでもポータブルトイレを使うようになり、失禁は大幅に減りました。
Q 振り返って思う、うまくいったワケは?
今回のケースでは“実際に排尿してみせたこと”です。本当に利用者一人ひとり、対応が異なることを実感しました。また、当初から、何度も繰り返し「おしっこをしませんか」と声をかけ続けたことで、排泄を習慣化できたことも大きかったと思います。
※紹介している内容は、事実をもとに一部編集しています。
イラスト/山口まく