なるべく大事(おおごと)にしたくないという心理から、虐待の通報には抵抗感をもつ人が多いもの。しかし、通報後の流れや各自の役割を知ることで、前向きに受け止められるはずです。
何よりも大切なのは早期に通報すること
高齢者虐待防止法では、「虐待の疑い」があった時点で早期に通報することが義務付けられています。虐待の対応でもっとも避けなければならないのが、気づいた人が一人で抱え込むことで判断が遅れたり、状況が深刻化したりすること。虐待かどうかを判断する地域包括支援センターや市町村を信頼し、すみやかに情報提供することを意識しましょう。高齢者の人権を第一に考え、事実から目を逸らさずに行動することが重要です。
通報における原則
虐待の発見と通報は義務
誰からの虐待であったとしても、発見と通報は介護職の法的な義務であり、守秘義務よりも優先される。
事実確認より通報を優先
事態の悪化を防ぐためにも、「虐待の疑い」の段階で通報し、虐待かどうかの判断は地域包括支援センターや市町村に委ねる。
通報者に対する保護規定がある
通報者が誰であるか漏らされたり、通報により不利益な取り扱いを受けたりしないことが規定されている。
ホームヘルパーとサービス提供責任者の役割
「通報した人が全責任を負うのでは?」と不安になるかもしれませんが、それは誤解です。高齢者の虐待について解決のかじ取りをするのは、あくまでも地域包括支援センターや市町村。虐待かどうかの判断、立入調査、各会議の進行などは、すべて彼らがおこないます。訪問介護事業所に求められるのは、通報時の的確な情報提供や、個別ケア会議などへの参加、そして虐待が終結するまで継続的な支援をすることです。
ホームヘルパーの役割
- 日頃から利用者の様子をよく観察し、虐待の疑いがあったらすぐ報告する
- どのような異変を感じたか、見聞きしたことをメモしておく
- 支援計画を理解してケアに当たり、再発防止に努める
サービス提供責任者の役割
- ホームヘルパーからの相談へ迅速に対応する
- 情報をまとめ、ケアマネジャーに連絡、あるいは直接、関係機関に通報する
- 個別ケア会議などへ参加する(ホームヘルパーが参加することも)
※これらの役割分担は一例であり、状況によって異なる場合もあります。
本誌では、虐待を通報してから終結までに、誰がどんな対応をしてゆくのかが、ひとl/で分かるフローチャートを紹介しています。
監修/⼭⽥祐⼦
⽇本⼤学⽂理学部社会福祉学科教授。⽇本⾼齢者虐待防⽌学会事務局⻑・理事。かながわ⾼齢者あんしん介護推進会議⾼齢者虐待防⽌部会委員⻑。社会福祉学の視点から、⾼齢者虐待の実践的な研究やマニュアル作成に携わる。著書に『家族介護と⾼齢者虐待』(⼀橋出版)など。
イラスト/しまだ・ひろみ