利用者や家族に寄り添う心は、介護職として欠かせません。ですが、安全性を確保しながらサービスを提供するには、相手の要望を受け入れるだけでなく、プロとしてアドバイスすることも求められます。
希望に添った結果、事故を招くことも
「それは危ないのでは?」と思うような要望が利用者や家族からあり、困った経験はないでしょうか。利用者の嗜好や生活歴を重視して、個別の要望にできる限り応えることも大切ですが、利用者の安全を最優先とし、専門職として危険を回避する必要があります。
例えば、嚥下機能が低下しているのに「大好きなお刺身は刻まずに食べたい」と強く希望する利用者がいました。相手への思いが強いほど「叶えてあげたい」と思うものですが、その結果、死亡事故につながり、事業所と介護職員が責任を問われた実例もあります。
タイミングを見計らって上手に提案を
「利用者の希望を尊重したケアでは、安全性が確保できない」と判断したときは、まず予想されるリスクを利用者や家族にしっかり説明しましょう。代替案を提示することも有効です。それでも強い要望があり、一旦は受け入れざるを得なかったとしても、タイミングを見計らい、働きかけを継続することが必要です。
上記の例でいえば、むせる頻度が高くなるなど、嚥下機能に変化が現れたときを逃さないこと。利用者や家族が危険性を実感したタイミングで、「喉に詰まると、万が一の場合は窒息もあり得るので、ひと口大に刻んでもよろしいですか」などと提案しましょう。
『へるぱる2018 11・12月』ではゼロにできない事故と発生させてはいけない事故について重要なポイントを解説しています。
監修/岩永美穂
東京海上日動ベターライフサービス株式会社 ソリューション事業部 専門部長。社会福祉士、ケアマネジャー。訪問介護、居宅介護支援を運営している同社において、ホームヘルパー、サービス提供責任者等の研修体系の構築・社内講師の育成を担当後、現在は自社で構築したノウハウをもとに、介護サービス事業者向けのセミナー講師として全国で活躍中。取材・文/ナレッジリング(中澤仁美)
イラスト/しまだ・ひろみ