85歳のKさんは認知症で要介護3の女性。同居している難病を患う娘さんと仲が悪く、ケンカばかり。ゴミの出し方で揉め、以来「ゴミは出さない」と、自分の部屋にため込むようになりました。
この現場の主人公:本木あかねさん(42歳・仮名)
訪問介護歴7年。4月からサービス提供責任者に。休日は、中学生の娘とお菓子作りを楽しんでいるそう。
Q どういう状況からスタートしたの?
指定難病のリウマチを患う娘さんと同居しているKさん。当初は週1回の買い物援助からでした。Kさんは「あの女(娘)の世話にはならない」と娘さんの悪口ばかりでしたが、サービス自体は問題なくおこなえていました。ところが、娘さんから「母がゴミを出さなくなった。私は仲が悪くて母の部屋には入れないので、何とかしてほしい」と相談されました。
Q ゴミを出さなくなった理由は?
それまでは、Kさんが玄関にゴミを置くと、娘さんがゴミ収集所に持って行く流れでした。ある日、ゴミを置こうとしたら、玄関掃除をしていた娘さんに「今は出さないで」と言われたらしいんです。以来、「意地悪された。もう出さない」と部屋にためるように。ケアプランを変更し、買い物援助に入った際、玄関までゴミを出すことにするも、「自分でできる」「でも出さない!」と。さらに声をかけると「うるさい」と怒鳴り散らすようになりました。
Q 他にどんな対応を取ったの?
直接、「ゴミを出す」とは言わず「部屋が片付くとスッキリしませんか?」「物が増えると転倒の危険があるので」などと声をかけましたがダメ。さらにケアマネが、「ゴミ収集日に合わせて訪問し、ヘルパーが収集所まで持っていきましょうか」と提案したところ、「余計なことをしないで。もう家に来ないで!」と……。結局1カ月以上ため込み、廊下にまで悪臭が漂いはじめました。
Q 解決のきっかけになったのは?
事例検討会です。これまでも事業所内では何度も話し合っていたのですが、案が浮かばず……。でも新鮮なメンバーで活発な話し合いができ、「本当に困っているのは誰? Kさんではなく、娘さんや自分たちでは?」という意見が出たんです。すごく腑に落ちました。そこで、娘さんにも了解を得て、様子を見ながらゴミについて触れないよう気を配り、支援したら、半月もするとKさんが自らゴミを出してくれたんです。
Q 振り返って思う、うまくいったワケは?
当初は困っている娘さんの意見を中心に対応していたのですが、基本に立ち返り、利用者であるKさんの視点に立ったことです。また、いろんな立場の人と話し合うことで、俯瞰的な見方ができたのも大きかったと思います。ケアの本質はもちろん、利用者家族との関係性なども勉強になった事例です。
本誌では、訪問介護の現場で起こりがちな問題を他のホームヘルパーさんがどのように乗り越えたか︖ ヘルパーさんの体験談をもとに、解決するまでを紹介しています。
※紹介している内容は、事実をもとに⼀部編集しています。
イラスト/⼭⼝まく